宿題 #4(匿名希望)

※この文章は「宿題割引」でVOLUME 1『うみべのクロノス』を観劇した来場者によるレビューです

お名前
匿名希望

観劇日時
2018年3月22日 19時30分


<うみべのクロノス 全体的な感想の話>

 初日の回を観劇しました。

 針谷さんのtwitterで「稽古場では『見なくていい』『聞かなくていい』『伝えなくていい』みたいなことばっか言ってる気がする」という呟きを見てから、一体どんな舞台になるのだろうとずっと引っかかっていたのですが、確かに登場人物達は最初から見ていなかったし聞いてもいなかった。相手に伝えようとする言葉と、そうではない言葉の違いが如実に現れていて、内容としては同じことを話しているはずなのに…と、物語が始まって早々とても不思議な感覚を覚えました。

 また、同じ言葉が繰り返されていく中、「どうやら人によって話している時間軸が違うらしい」とわかったので、最初の方はどの時間軸で話しているのかを考えながら観ていました。まあ、途中からついていけなくなり、最終的には時間軸をつかもうとする努力そのものを放棄しましたが。

 でも、時間って結局のところそういうものなのかもしれないとも思いました。

 そこに存在していることは、漠然と知ってはいるけれど、つかめる瞬間なんて一時たりとも訪れないんだろうなって。

 観劇中、「この言葉良いな」と思う場面は沢山あったのですが、物語が進んでいくうちに、細かい台詞なんてすぐ忘れていって、忘れていく過程を自覚してやるせない気持ちになりました。(それで台本を買いました)

 人が日々をどうにかやり過ごしていく中で、一体どれほどの言葉を覚えていられるのだろうかと、公演中ずっと考えていました。

<ワタツミさんの「苗字珍しくて嫌問題」>

 物語の本題とはあまり関係のない、かつ非常に個人的な話なのですが、いや、この話は本当にわかる…私自身、元の苗字が独特だったので、さっさと普通の苗字になったらきっと楽だろうし、もし万が一悪いことをしても特定されなくなるし、そんな日が来るといいなと思っていました。

 ところが、いざ苗字が変わってみたら、まるで馴染めない自分がいました。新しい名前も、当然全く覚えてもらえません。私のアイデンティティは、あの珍しい苗字にかなり依存していたのだなと今になって思うので、時と場合によっては元の苗字の方を名乗り続けています。

  言い訳めいた話になりますが、今の苗字もそれはそれで気に入っています。字画が抜群に良くなりましたし、あまり人の記憶に残りたくない場面では積極的に使っています。

<ワタツミさんの「旅行、夢みたい問題」>

 拾ったところが二箇所ともワタツミさんということで、ワタツミさん好きがバレてしまいそうですね。これも先ほどの感想に続いて、極めて個人的な話になるのでどうかなとも思ったのですが、個人的な内容で構わないって宿題割企画説明にも書いてあったしそのままいきます。

 私が今まで辿ってきた歴史というのは、常に移動と共に語られます。要は転勤族の娘で転々としていたわけなのですが、行き先が国内外問わず、並べてみるとまるで節操のないラインナップでお届けされていました。

 人に話すと、かなりの確率で「羨ましい」と言って頂ける有難い環境だったのですが、その環境が目まぐるしく変わり過ぎていたせいなのか、実は色々なことをほとんど覚えていません。特に、海外にいた通算六年間の出来事は、かなり断片的で曖昧な記憶しか思い出せない。海外にいた時は旅行もしたはずなのに、1つの国で覚えている景色なんてせいぜい2つ程度です。その時、自分が何を考えていたかなんて、記憶にすら残っていません。

 しかし、「自分が考えていたこと」について、強烈に覚えていることが1つだけあります。中学2年生の修学旅行で、「この楽しい時間なんて、あっという間に終わっちゃうんだろうし、きっと今ここで何やってたかなんて覚えていられないんだろうなあ」と宿でぼんやり考えていました。多分、場所は宿だったはず。この辺も曖昧です。

 当時の自分の予言めいたものは的中して、その前後自分が誰と何をしていたのか、一体何がそこまで楽しかったのか、全くと言っていいほど覚えていません。行き先も、結構珍しい場所だったはずなのに、写真を見てもピンとこない。

 誰と一緒に行ったのか、構成人員については記録として残っていますが、その人達と共有した場所や時間、そういった肝心な部分が欠落している。で、もう取り戻すこともできない。

<終わりに>

 こんな生育環境だったこともあって、時間については関心を持っていたのですが、この一年間書き進めていた小説が時間の話で、そしてたまたま劇場がとても行きやすい場所にあったので、これはきっとご縁だなと思ってチケットを予約しました。

 時間とはなんぞやって問いは結局余計にわからなくなりましたが、クロノが終始可愛かったので、私のそばにあるはずの時間もこんな姿をしていたらいいのにと思いました。

 今は取り戻せない、私が辿ってきたはずの時間は、決して消えたわけではなくて、クロノみたいな形でどこかに存在しているのであれば、ある種救いがあっていいのになと観劇して思いました。アクセスする方法を見つけられれば、もっといいのですが。

 乱暴なまとめですみません。次回作を楽しみにしています。